2011年9月24日(土)9:30/岩手県民会館
<福島県>
郡山女子大附属高校音楽部(女声32名)
指揮/榊枝まゆ美
ピアノ/横溝聡子
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「宇宙の滴りをうけて」(譚詩頌五花)
ピアニシモのロング・トーンと、クレシェンドとディミヌエントを丹念に施す、レガートな歌い方の美しい課題曲。ソプラノの高音がスピンとせずフォルテで棒歌いになり、やや小手先の技巧に走り気味だが、この位やって正解の曲。自由曲には充分に美しいハーモニーがあり、曲自体の強さが指揮者の情感にフィットして素直に聴ける。但し、思い入れの強過ぎて、全体としては平板になるし、ソプラノに一人の声の耳に付くのも気になる。曲の構造を把握し、アチェルラントの効果的な使用法や、全体を見通したテンションの張り方を考慮すべきと思う。
県立安積高校合唱団(女声18名)
指揮/鈴木和明
スヴェーリンク「Lascia Filli mia cara 愛するフィリスよ」
ラヨシュ・バルドシュ「Magos a rutafa 大きなルタの木」
美しいポリフォニーで各声部も分離して聴き取れるが、ややデュナーミクの付け方がクサいので、もう少し素直にやって欲しい。でも、声で聴かせる実力は充分にあるので、これをバロック寄りの解釈とも考えられる。バルドッシュも抜群に美しく情感もタップリで、軽くルバートしたりアチェルラントしてみたり、細かい工夫の耳に付く。ただ、全体を通し同じテンションで推移するのは惜しい。アンダンテからアレグロへ切り替える、前後半でのテンポの対比を、もっとクッキリさせれば効果的と思う。
県立郡山高校女声合唱団(32名)
指揮/菅野正美
ピアノ/鈴木あずさ
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「会う-手紙-川」(女に第2集)
課題曲はピアニシモのロング・トーンに無理なく、余裕のある声の力で聴かせるが、ソプラノは高音部で音色の硬くなるので、もっと柔らかく響かせたい。この指揮者のお得意とする自由曲で、単なるヴォーカリーズもデュナーミクで聴かせ、そこから早いパッセージのリズムの良さで、情感を表出する切り替えの巧さは、さすがに自家薬籠中のものとしている。但し、更にダイナミク・レンジを広げ、全体のテンションを高める、まだその前段階に留まっているようにも思う。そうでなければ今日の演奏では物足りず、僕としては隔靴掻痒の感を否めない。
県立郡山東高校混声合唱団(21名)
指揮/小林悟
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
ジャヌカン「La Guerre マリニャンの戦い」
やや団子気味のポリフォニーで各声部の分離しないのと、テンポも遅過ぎる上に一定なので、少なくともメリスマ部分は速くすべきと思う。ジャヌカンはリズムの重目だが、詞の内容を伝えようとする大袈裟なデュナーミクの付け方は、シャンソンらしくて悪くない。悪ノリ気味の男声と比べ、女声が大人しいので、彼等に合わせて羽目を外すべき。中間部のオノマトペはテンポの弄り過ぎで、ここは一気呵成にやる方が効果的な筈。それとフランス語の発音にも、大いに改善の余地はあると思う。
県立磐城高校合唱部(混声46名)
指揮/赤城佳奈
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
千原英喜「鬼女」(コスミック・エレジー)
課題曲には広いダイナミク・レンジの構築性があり、しっかりした骨格を持つ音楽作り。フォルテシモを出し切り、ハーモニーを存分に鳴らす、声に力がある。自由曲は効果の為の効果を狙った、表面的なインパクトのみを追求する曲。これ位の声の力の無いと聴き映えしないし、リズムの扱いもポルタメントの用法も的確で、曲の意図は充分に汲む演奏だった。
県立郡山高校合唱団(混声52名)
指揮/菅野正美
ピアノ/鈴木あずさ
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
鈴木輝昭「木/水」(五つのエレメント)
フォルテでも決して乱暴にならない、柔らかい発声と質の高いハーモニーで聴かせる。高嶋は素直な曲作りだが、もう少しこの指揮者らしい芸も聴かせて欲しい。鈴木は晦渋な曲で構成を見通し難いが、局面のハーモニーの充実やデュナーミクの工夫等、細部の彫琢を全体の構成へ結び付ける、指揮者の手腕が見事。ただ、山場の何処にあるのか分からず、聴き映えのしない曲なので、ここは無理にでもクライマックスを作りたかった。
県立会津学鳳中学・高校(混声62名)
指揮/佐藤朋子
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
Eric Whitacre:Hope,feith,life,Love…/With a lily in your hand
身振りの大きいデュナーミクは、やや凝り過ぎでテンポも遅過ぎる。高嶋の曲はダイナミク・レンジを広く取り、声そのもので聴かせるべきだが、そこまでの声の輝きは無かった。ウィテカーの一曲目はテンポの遅く、色々と工夫はしているが声を保持出来ず、ピアニシモでハーモニーの揺れが耳に付く。曲に対する音楽作りのクドくて内容に乏しく、この学校の混声での出場は二年目で、まだ発展途上の印象を受ける。
県立葵高校合唱部(女声50名)
指揮/瓶子美穂子
ピアノ/山内直美
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「手枕の袖」(和泉式部日記より)
課題曲は対位法処理の上手く出来て、立体感のある音楽作り。ただ、この曲は更に速く演奏するべきで、このテンポでは遅過ぎる。鈴木への委嘱曲は晦渋だが、曲の構造を良く把握して、目に見えるように分かり易く伝える、なかなか手錬の指揮。ただ、声の音色の平凡で色彩感に乏しく、声を磨けば音楽も華やかになるので、そこを目指し頑張って欲しい。
県立橘高校合唱団(女声44名)
指揮/大竹隆
ピアノ/鈴木あずさ
ガルッピ「Judicabit in nationibus 主は諸国を裁き」(詩篇110番)
鈴木輝昭「亡き人に」(智恵子抄)
ガルッピの単純な曲に対し、重厚な正攻法の音楽作り。でも、ベートーヴェンみたいにやるのが、果たしてこの曲の実質に見合っているのかどうか、僕には良く分からない。鈴木への委嘱曲では音量の大小、音域の高低でムラの無い、声そのものの輝かしさが圧倒的。一旦、緩めてから再び盛り上げる、曲を見通したテンションの張り方も巧い。但し、ずっと同じテンポで変化のない曲なので、何かしらの対比を作る、もう一工夫は欲しかった。
県立福島東高校合唱部(混声41名)
指揮/星英一
ピアノ/鈴木あずさ
ハイドン「Der Augenblick 束の間」
鈴木輝昭「W.シェイクスピアによる“十二夜”歌集」
曲に対してやや声の力の足りず、ハイドンではなくモーツァルトみたいだが、でも委細構わず正攻法で音楽を作る、その姿勢が潔い。途中でリタルダントしてピアニシモに持って行く辺り、実に泣かせる。鈴木への委嘱曲は歌詞が英語だし、これまた構成の分かり難い曲で、指揮者は分かっているにしても、生徒さんの理解は行き届いているのか、やや心許無い。最後の“ファ・ラ・ラ”のリフレインは唐突に感じるし、譜面を離れて思い切りデフォルメして貰わないと、僕のような物分りの悪い人間は楽しめない。
県立安積高校合唱団(混声34名)
指揮/鈴木和明
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
Ryan Cayabyab:Aba po,Santa Mariang reyna
やや暗目の音色で重厚なハーモニーを作る、マルカートな歌い口のポリフォニーは、個性的で結構面白い。自由曲は良く分からない曲だが、フォルテに力のあってダイナミク・レンジを広く使えるし、柔らかいピアニシモにセンシティヴな情感のあり、何となく丸め込まれた感じ。でも、最後のピアニシモのハーモニーも綺麗にキメて、終わり良ければ全て良しの気分だった。
県立郡山東高校合唱団(女声33名)
指揮/小林悟
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
信長貴富「春の苑/天の火/山桜花」(万葉恋歌)
課題曲でのソプラノの硬い声は難だが、ピアニシモから始めて段々とフォルテまで持って行く、キチンと曲の設計が出来ていて納得の解釈。声の輝き自体は今ひとつだが、この自由曲ならテンポを粘っても、変なトコにアクセントを付けても全く問題は無く、デフォルメすればするほど面白く聴ける。この演奏でも物足りない位で、もっとやれやれと唆したい気分だ。
県立喜多方高校音楽部(混声58名)
指揮/高橋祐二
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
鈴木輝昭「いまはむかし」(竹取物語頌)
課題曲は遅目のテンポと、大袈裟なデュナーミクの付け方でジックリ聴かせる、解釈としては悪くない。ただ、自由曲まで同じ調子で粘っこくやると、鈴木輝昭の晦渋に溺れて行き先不明となる。声の出し方の力任せで荒っぽいし、余り局面に拘らずに全体を見渡した、風通しの良い音楽の望まれる。
県立会津高校合唱団(混声71名)
指揮/山ノ内幸江
松本望「やわらかいいのち」(あなたへ)
ラインベルガー「Credo」(ミサ変ホ長調 op.109)
深く美しいピアニシモと、分厚いフォルテシモのハーモニーを基本に、テンポの緩急も自由自在な、振幅の広い曲作り。逆に演奏の立派過ぎて、この課題曲の弱さを露呈してしまう程。ラインベルガーも美しいピアニシモから、フォルテシモまで効果的に持って行く。指揮者のアゴーギグの揺らせ方が実に音楽的で、混声コーラスをシンフォニックに鳴らせて、ドッペル・コールの効果も満点。これぞドイツ・ロマン派の正統を、今に伝える演奏と感じ入った。
県立安積黎明高校合唱団(女声46名)
指揮/宍戸真市
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「夜曲-木魂の薔薇」(妖精の距離)
課題曲で言葉へセンシティヴに反応する、柔らかいデュナーミクを作る伝統は健在。指揮者の対位法処理も、山場の作り方も上手い。クラスターぽい冒頭部分から、甘い旋律を排して厳しい音を連ねる委嘱曲を、柔らかい中にも芯のある声質と、高い技術力で歌い切る。指揮者の曲を見通した、テンションの張り方・緩め方も的確で、この伝統校に新境地を付け加える、見事な演奏と思う。
県立福島高校合唱部(混声38名)
指揮/石川千穂
松本望「やわらかいいのち」(あなたへ)
信長貴富「絶え間なく流れてゆく」(廃墟から)
課題曲はテンポの粘り過ぎて平板なので、もっとダイナミク・レンジを広げ、アチェルラントを効果的に使いたい。自由曲も更に厳しくテンションを高め、緻密なピアニシモのハーモニーを作らないと、聴かせ処が唐突に感じられ、フォルテシモの中間部も盛り上がり辛い。上っ面だけの表面的な曲だけに、圧倒的な声で聴かせないと効果は揚がらない。
<福島県>
郡山女子大附属高校音楽部(女声32名)
指揮/榊枝まゆ美
ピアノ/横溝聡子
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「宇宙の滴りをうけて」(譚詩頌五花)
ピアニシモのロング・トーンと、クレシェンドとディミヌエントを丹念に施す、レガートな歌い方の美しい課題曲。ソプラノの高音がスピンとせずフォルテで棒歌いになり、やや小手先の技巧に走り気味だが、この位やって正解の曲。自由曲には充分に美しいハーモニーがあり、曲自体の強さが指揮者の情感にフィットして素直に聴ける。但し、思い入れの強過ぎて、全体としては平板になるし、ソプラノに一人の声の耳に付くのも気になる。曲の構造を把握し、アチェルラントの効果的な使用法や、全体を見通したテンションの張り方を考慮すべきと思う。
県立安積高校合唱団(女声18名)
指揮/鈴木和明
スヴェーリンク「Lascia Filli mia cara 愛するフィリスよ」
ラヨシュ・バルドシュ「Magos a rutafa 大きなルタの木」
美しいポリフォニーで各声部も分離して聴き取れるが、ややデュナーミクの付け方がクサいので、もう少し素直にやって欲しい。でも、声で聴かせる実力は充分にあるので、これをバロック寄りの解釈とも考えられる。バルドッシュも抜群に美しく情感もタップリで、軽くルバートしたりアチェルラントしてみたり、細かい工夫の耳に付く。ただ、全体を通し同じテンションで推移するのは惜しい。アンダンテからアレグロへ切り替える、前後半でのテンポの対比を、もっとクッキリさせれば効果的と思う。
県立郡山高校女声合唱団(32名)
指揮/菅野正美
ピアノ/鈴木あずさ
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「会う-手紙-川」(女に第2集)
課題曲はピアニシモのロング・トーンに無理なく、余裕のある声の力で聴かせるが、ソプラノは高音部で音色の硬くなるので、もっと柔らかく響かせたい。この指揮者のお得意とする自由曲で、単なるヴォーカリーズもデュナーミクで聴かせ、そこから早いパッセージのリズムの良さで、情感を表出する切り替えの巧さは、さすがに自家薬籠中のものとしている。但し、更にダイナミク・レンジを広げ、全体のテンションを高める、まだその前段階に留まっているようにも思う。そうでなければ今日の演奏では物足りず、僕としては隔靴掻痒の感を否めない。
県立郡山東高校混声合唱団(21名)
指揮/小林悟
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
ジャヌカン「La Guerre マリニャンの戦い」
やや団子気味のポリフォニーで各声部の分離しないのと、テンポも遅過ぎる上に一定なので、少なくともメリスマ部分は速くすべきと思う。ジャヌカンはリズムの重目だが、詞の内容を伝えようとする大袈裟なデュナーミクの付け方は、シャンソンらしくて悪くない。悪ノリ気味の男声と比べ、女声が大人しいので、彼等に合わせて羽目を外すべき。中間部のオノマトペはテンポの弄り過ぎで、ここは一気呵成にやる方が効果的な筈。それとフランス語の発音にも、大いに改善の余地はあると思う。
県立磐城高校合唱部(混声46名)
指揮/赤城佳奈
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
千原英喜「鬼女」(コスミック・エレジー)
課題曲には広いダイナミク・レンジの構築性があり、しっかりした骨格を持つ音楽作り。フォルテシモを出し切り、ハーモニーを存分に鳴らす、声に力がある。自由曲は効果の為の効果を狙った、表面的なインパクトのみを追求する曲。これ位の声の力の無いと聴き映えしないし、リズムの扱いもポルタメントの用法も的確で、曲の意図は充分に汲む演奏だった。
県立郡山高校合唱団(混声52名)
指揮/菅野正美
ピアノ/鈴木あずさ
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
鈴木輝昭「木/水」(五つのエレメント)
フォルテでも決して乱暴にならない、柔らかい発声と質の高いハーモニーで聴かせる。高嶋は素直な曲作りだが、もう少しこの指揮者らしい芸も聴かせて欲しい。鈴木は晦渋な曲で構成を見通し難いが、局面のハーモニーの充実やデュナーミクの工夫等、細部の彫琢を全体の構成へ結び付ける、指揮者の手腕が見事。ただ、山場の何処にあるのか分からず、聴き映えのしない曲なので、ここは無理にでもクライマックスを作りたかった。
県立会津学鳳中学・高校(混声62名)
指揮/佐藤朋子
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
Eric Whitacre:Hope,feith,life,Love…/With a lily in your hand
身振りの大きいデュナーミクは、やや凝り過ぎでテンポも遅過ぎる。高嶋の曲はダイナミク・レンジを広く取り、声そのもので聴かせるべきだが、そこまでの声の輝きは無かった。ウィテカーの一曲目はテンポの遅く、色々と工夫はしているが声を保持出来ず、ピアニシモでハーモニーの揺れが耳に付く。曲に対する音楽作りのクドくて内容に乏しく、この学校の混声での出場は二年目で、まだ発展途上の印象を受ける。
県立葵高校合唱部(女声50名)
指揮/瓶子美穂子
ピアノ/山内直美
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「手枕の袖」(和泉式部日記より)
課題曲は対位法処理の上手く出来て、立体感のある音楽作り。ただ、この曲は更に速く演奏するべきで、このテンポでは遅過ぎる。鈴木への委嘱曲は晦渋だが、曲の構造を良く把握して、目に見えるように分かり易く伝える、なかなか手錬の指揮。ただ、声の音色の平凡で色彩感に乏しく、声を磨けば音楽も華やかになるので、そこを目指し頑張って欲しい。
県立橘高校合唱団(女声44名)
指揮/大竹隆
ピアノ/鈴木あずさ
ガルッピ「Judicabit in nationibus 主は諸国を裁き」(詩篇110番)
鈴木輝昭「亡き人に」(智恵子抄)
ガルッピの単純な曲に対し、重厚な正攻法の音楽作り。でも、ベートーヴェンみたいにやるのが、果たしてこの曲の実質に見合っているのかどうか、僕には良く分からない。鈴木への委嘱曲では音量の大小、音域の高低でムラの無い、声そのものの輝かしさが圧倒的。一旦、緩めてから再び盛り上げる、曲を見通したテンションの張り方も巧い。但し、ずっと同じテンポで変化のない曲なので、何かしらの対比を作る、もう一工夫は欲しかった。
県立福島東高校合唱部(混声41名)
指揮/星英一
ピアノ/鈴木あずさ
ハイドン「Der Augenblick 束の間」
鈴木輝昭「W.シェイクスピアによる“十二夜”歌集」
曲に対してやや声の力の足りず、ハイドンではなくモーツァルトみたいだが、でも委細構わず正攻法で音楽を作る、その姿勢が潔い。途中でリタルダントしてピアニシモに持って行く辺り、実に泣かせる。鈴木への委嘱曲は歌詞が英語だし、これまた構成の分かり難い曲で、指揮者は分かっているにしても、生徒さんの理解は行き届いているのか、やや心許無い。最後の“ファ・ラ・ラ”のリフレインは唐突に感じるし、譜面を離れて思い切りデフォルメして貰わないと、僕のような物分りの悪い人間は楽しめない。
県立安積高校合唱団(混声34名)
指揮/鈴木和明
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
Ryan Cayabyab:Aba po,Santa Mariang reyna
やや暗目の音色で重厚なハーモニーを作る、マルカートな歌い口のポリフォニーは、個性的で結構面白い。自由曲は良く分からない曲だが、フォルテに力のあってダイナミク・レンジを広く使えるし、柔らかいピアニシモにセンシティヴな情感のあり、何となく丸め込まれた感じ。でも、最後のピアニシモのハーモニーも綺麗にキメて、終わり良ければ全て良しの気分だった。
県立郡山東高校合唱団(女声33名)
指揮/小林悟
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
信長貴富「春の苑/天の火/山桜花」(万葉恋歌)
課題曲でのソプラノの硬い声は難だが、ピアニシモから始めて段々とフォルテまで持って行く、キチンと曲の設計が出来ていて納得の解釈。声の輝き自体は今ひとつだが、この自由曲ならテンポを粘っても、変なトコにアクセントを付けても全く問題は無く、デフォルメすればするほど面白く聴ける。この演奏でも物足りない位で、もっとやれやれと唆したい気分だ。
県立喜多方高校音楽部(混声58名)
指揮/高橋祐二
高嶋みどり「父の唄」(若者たちの悲歌)
鈴木輝昭「いまはむかし」(竹取物語頌)
課題曲は遅目のテンポと、大袈裟なデュナーミクの付け方でジックリ聴かせる、解釈としては悪くない。ただ、自由曲まで同じ調子で粘っこくやると、鈴木輝昭の晦渋に溺れて行き先不明となる。声の出し方の力任せで荒っぽいし、余り局面に拘らずに全体を見渡した、風通しの良い音楽の望まれる。
県立会津高校合唱団(混声71名)
指揮/山ノ内幸江
松本望「やわらかいいのち」(あなたへ)
ラインベルガー「Credo」(ミサ変ホ長調 op.109)
深く美しいピアニシモと、分厚いフォルテシモのハーモニーを基本に、テンポの緩急も自由自在な、振幅の広い曲作り。逆に演奏の立派過ぎて、この課題曲の弱さを露呈してしまう程。ラインベルガーも美しいピアニシモから、フォルテシモまで効果的に持って行く。指揮者のアゴーギグの揺らせ方が実に音楽的で、混声コーラスをシンフォニックに鳴らせて、ドッペル・コールの効果も満点。これぞドイツ・ロマン派の正統を、今に伝える演奏と感じ入った。
県立安積黎明高校合唱団(女声46名)
指揮/宍戸真市
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
鈴木輝昭「夜曲-木魂の薔薇」(妖精の距離)
課題曲で言葉へセンシティヴに反応する、柔らかいデュナーミクを作る伝統は健在。指揮者の対位法処理も、山場の作り方も上手い。クラスターぽい冒頭部分から、甘い旋律を排して厳しい音を連ねる委嘱曲を、柔らかい中にも芯のある声質と、高い技術力で歌い切る。指揮者の曲を見通した、テンションの張り方・緩め方も的確で、この伝統校に新境地を付け加える、見事な演奏と思う。
県立福島高校合唱部(混声38名)
指揮/石川千穂
松本望「やわらかいいのち」(あなたへ)
信長貴富「絶え間なく流れてゆく」(廃墟から)
課題曲はテンポの粘り過ぎて平板なので、もっとダイナミク・レンジを広げ、アチェルラントを効果的に使いたい。自由曲も更に厳しくテンションを高め、緻密なピアニシモのハーモニーを作らないと、聴かせ処が唐突に感じられ、フォルテシモの中間部も盛り上がり辛い。上っ面だけの表面的な曲だけに、圧倒的な声で聴かせないと効果は揚がらない。