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シュッツ「クリスマス物語」SWV.435

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<H.シュッツとバッハ以前の17世紀ドイツ巨匠の音楽>
2011年12月16日(金)19:00/京都文化博物館別館ホール 

アンサンブル・プリンチピ・ヴェネツィアーニ
ソプラノ/緋田芳江/鈴木芳
アルト/下村美穂
テノール/岡村雄一
コルネット&リュート&バリトン/笠原雅仁
バス/松下伸也

バロック・ヴァイオリン/大内山薫/中川敦史
ヴィオラ・ダ・ガンバ/頼田麗
コルネット/上野訓子
サクバット/松田洋介/日生貴之/織田貴浩
オルガン/野澤知子

J.エッカルド「Von himmel hoch 天上より現れ」
シャイン「Paduan 四声のパドゥアン」
ミヒャエル・プレトリウス「Puer natus ベツレヘムに産まれし幼子」
シュッツ「Sumite paslmum 賛美の歌/Fili mi Absalon わが子アブサロム SWV.269/
Exultavit cor meum in Domino 私の心は主によって喜び SWV.258
(シンフォニア・サクレ第1集)/O Jesu nomen dulce おおイエス、甘美な御名 SWV.308/
Veni sancte Spiritus 来たれ聖霊よ SWV.328(クライネ・ガイストリヒ・コンチェルト)/
Historia der freudenreichen Geburt Jesu Christi
イエス・キリストの喜ばしき降誕の物語 SWV.435」


 京都を本拠とする古楽団体、アンサンブル・プリンチピ・ヴェネツィアーニが昨年の“ヴェスプロ”に続き、今年はシュッツを取り上げる。何れも演奏頻度の少ない初期バロックの大曲だが、取り分けシュッツの季節物は滅多に聴けない珍品で、誠に有難い話である。個人的にクリスマスのBGM定番曲は、ブリテンの「キャロルの祭典」と、オネゲルの「クリスマス・カンタータ」、そして今日演奏される「クリスマス・ヒストーリエ」で、僕はライヴでは初めて聴く。

 関西ローカルでもヴェネツィアを名乗るアンサンブルなので、普段はイタリア物を中心に演奏しており、ドイツ物を取り上げるのは珍しいらしい。それがバッハでも、テレマンでもないシュッツと、これはまた渋い処を突いて来る。尺的に30分程度の曲なので、コンサートの前半はシュッツの宗教曲を中心に、四人の作曲家の小品を八曲演奏し、後半のメインに「クリスマス・ヒストーリエ」を置く一夜の構成。

 三条姉小路にある京都文化博物館別館の建物は、重要文化財に指定されている旧日銀京都支店で、東京駅丸の内口や大阪市中央公会堂でお馴染み、辰野金吾設計によるレンガ造り二階建て。元の銀行の営業部屋は天井吹き抜けの広いホールで、そこを演奏会場としてリサイクルした、なかなかお洒落な空間。平土間の入口は銀行受付になっており、そこを回り込んだ奥の方に客用の椅子を並べ、反対側に演奏者が陣取る。二階部分には廻廊が四周に張り出して、あそこで聴けば音が良いだろうなぁ、と思わせる。

 開演時間になると器楽のメンバーが定位置に着き、声楽陣の入場を待つ。歌手達が部屋の外でアカペラで唱い出し、そこへオルガン伴奏の入ると、そのまま唱いながらゾロゾロとホールに入場する、「キャロルの祭典」みたいな趣向でコンサートは始まる。最初のシュッツのモテットは、トゥッティでサクバットも華やかに、次はベース・ソロを器楽隊で支える曲。管と弦の息の合わず、危なっかしい場面もあったが、そこは生演奏に付き物の、ご愛嬌と云う事で。

 三曲目ではコルネットを吹いていた人が、オルガン伴奏でバリトン・ソロを歌う。この方は歌を唱い、コルネットを吹く他に、リュートまで爪弾くなど矢鱈に多芸で、声質は高音部の綺麗なハイ・バリトン。まず持ち声自体が良く、メリスマの技術もあって、今日の男声歌手三人の中では一番巧いのが、何だか可笑しくも感じられる人。四曲目はオルガン伴奏を入れた五声で歌う、ノン・ヴィブラートのソプラノ二人の魅力を引き出す曲と感じる。一人は透明な声、もう一人は少し色のある声で、二人の声の対比が美しい。ただ、二人とも声量に乏しく、もっと声を張り上げ、鮮烈なフーガを作って欲しかった。大声を出さなければボロも出ないが、それでは盛り上がりにも欠けてしまう。

 五曲目はソプラノ・ソロを、二本のコルネットとオルガンで支える。尺八みたいなコルネットを操る、二人には抜群のテクニックがあり、このメンバーの中では図抜けているように思う。ソプラノもソロで聴かされると、この方はアンサンブル歌手ではあっても、ソリストでは無いと分かってしまう。前半の最後にはミヒャエル・プトリウスのモテット「Puer natus」が演奏された。

 シュッツやシャインに先立ち、イタリアに留学したプレトリウスは、三巻から成る浩瀚な音楽辞典「シンタグマ・ムジクム」の著者で、プロテスタント・カントライの伝統の世界に生き、初めてヴェネツィア楽派の書法を伝えた、ドイツ音楽史の上で重要な作曲家。その嬰児イエス・キリストの誕生を祝福するモテットは、14名全員のトゥッティで演奏される。教会ぽい雰囲気のある天井の高いホールに、柔らかい音の立ち昇り、シミジミとしたクリスマス・ムードを盛り上げる。

 休憩後はお目当ての「クリスマス・ヒストーリエ」で、コルネットの人の指揮と合図の、中間位の身振りに従っての演奏だった。でも、このアンサンブルの14名の頭数は、指揮無しで演奏するには多過ぎるし、指揮者を置くのなら少な過ぎる。中途半端な指揮では、レツィタティーヴォとトゥッティの対比は際立たず、更に強烈な明暗の対比の欲しい処だ。ただ、このホールは演奏者と聴衆との間の距離が近いので、音量の小さいのはインチメイトな雰囲気も醸して、雰囲気自体は悪くない。

 この曲は詰まる処、エヴァンゲリストのテノールと、天使のソプラノの二人の歌手の力量次第で、全体の出来も左右される。テノールの人は高音のスピントせず、頭声の伸びないのが難で、劇的なアリアは歌えそうもないが、エヴァンゲリストとしてレツィタティーヴォだけを歌っていれば、そのリリックな声は生かされる。ソプラノの人も三曲あるアリアを良く歌えて、まずは満足すべき出来栄え。単に透明なだけではなく、ほんのりとシュッツの深い色合いも付いて、クリスマス・ムードを盛り上げてくれた。

 でも、アルトとバスの二人に、声量の無いのは困り物。取り分けバスの人には単独のアリアがあり、これが声の小さい上に低音も響かず、殆んど聴き取れない程。東方博士のトリオの歌は、男声がコルネットの人とバスの人しか居らず、サックバットを吹いていた内の一人が楽器を置いて歌い出す、実に手作り感に溢れる展開。大学グリークラブには吹奏楽からの転向組も多いが、管楽器の経験者は息の使い方を知っているので、歌の上達も早い傾向はある。サックバットの人もソコソコ歌えていたが、これも相対的な問題なので、今日の非力な専門歌手陣となら互角だったとも云えそうだ。

 とにかく全体的に音量の小さく、フォルテとピアニシモの明確な対比の無いのは辛い。でも、コルネットの人は吹いている時以外は指揮して、曲の最後では少し盛り上げて見せてくれたし、奏者全員がシュッツの音楽を把握している様子のあり、クリスマス・ムードは盛り上がった事で、僕としては了解したい。ただ、声楽陣は余りにも非力で、関西にも他に人材は居る筈だし、今後のテコ入れを要望して置く。

 昔、まだ僕の若い頃、所属していた合唱団の副指揮者が、シュッツをやりたいと頻りに騒ぐので、一体シュッツて何者やねん?と尋ねてみると、一度クリスマス・オラトリオを聴いてみろと勧められた。おまえにエヴァンゲリスト歌わせてやるから、と彼は僕を唆すのだ。その話を演奏会の打ち上げ二次会で同席した、関西在住の某有名エヴァンゲリスト歌手にすると、だから素人は困るんや、と言われてしまった。今日は酔いの回りが早いぞ、とかも言われた。僕の若気の至りのお粗末でした。

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