2012年7月22日(日)13:30/川越市民会館
指揮/吉田寛/吉田みどり
生徒指揮/石井凌雅
ピアノ/野島万里子
埼玉県立川越高校グリークラブ
埼玉県立松山女子高校音楽部
松下耕「はらへたまってゆくかなしみ」(秋の瞳)
Ester Magi:Kerko-kell
木下牧子「彼/いつからか野に立つて(いつからか野に立つて)/
いっしょに(光と風をつれて)/わたしはカメレオン(わたしはカメレオン)/
老いたきつね(光る刻)」
高嶋みどり「太鼓を叩け、笛を吹け」(マレー民衆の唄“パントン”)
源田俊一郎編曲「瑠璃色の地球」(ウェディングセレクション)
武満徹「島へ」(うた)
信長貴富編曲「みかんの花咲く丘」(ノスタルジア)
上田真樹「僕が守る」
猪間道明編曲「マジンガーZ」
今村康編曲「浪漫飛行/世界に一つだけの花/栄光の架け橋」
Tsing-moo編曲「愛唄」
福永陽一郎編曲「君といつまでも」
Dvid Wright-arr:Lazy day
J.H.シュトゥンツ「自由の歌」
Tom Gentry:Sound Celebration
昨日は早朝からバタバタと走り回り、寄る年波を痛切に感じる僕としては、今日も早起きして福島から川越まで駆け付ける自信は無かった。しかし、今日は福島市の近場でコンサートが無い。昨日の土曜日は安積黎明と福島東の他にも、喜多方高校と仙台三桜高校の定演が被った。今日やってくれれば、どちらかに行ったのだが、これは言っても詮無い事である。昨年、伝統校の川越が九年振りにコンクール全国大会へ復帰したのは、男声合唱愛好家として嬉しいニュースだった。どうやら規模・実力共に復活を果たしたらしい、川越高校の定演を是非とも聴きたい、そう考えた僕は疲れた身体に鞭打ち、鈍行を乗り継いで川越へ向かった。
JR川越駅で下車し、駅前の交番で市民会館への道順を尋ねると、歩いては無理だからバスで行けと勧められる。でも、バス停で時刻表を見ると、開演時間に間に合いそうなバスが無い。万止むを得ず、タクシーで会場へ向かう。折角、新幹線代ケチっても、こんなトコで金使っちゃうんだよなぁ…。
又もや“時は金なり”で悠々と会場入りし、客席に着く。コンサート冒頭は校歌・応援歌・部歌の三連発。校歌はお約束通り音程の悪かったが、しかし三曲共に横を揃えようとか云うムダな努力は放棄し、ひたすらに元気良く歌いまくる。兎に角、生徒さんの指揮が煽る、煽る。これぞ正しく古式床しいグリー調で、こんな男声合唱が武蔵野の林間に生き伸びていたかと、僕は感激してしまう。もうあれだ、これだけでタクシー代の元は取れたぞ。
プログラムの最初はコンクール曲で、エストニアの何とか云う作曲家の自由曲は、訳の分からんヘンな曲。トップ・テノールは喉声で、ベース系は塩辛い声だし、現状の技術レヴェルを高いとは云い難い。でも、県大会はシードだそうなので、まあこれからだろうと思う。さすがに洗練されたとまでは云えないが、木下の二曲は結構キレイにハモらせ、曲によってキチンと発声を使い分ける、彼等は男声合唱のツボを心得ている。いいですねぇ、ホントにいいですねぇ。
次は女子高コーラス部の招待演奏で、これも如何にも青春してて良いですよねぇ。やっぱ高校生だと、合コンはハイキングとかに行くのかなとか、合同練習で女子高に入れるなら、ちょと嬉しいだろうなとか、でもそこでカップルの出来ちゃうと、部内に嫉妬の渦巻いたりして…と、おじさんは妄想を繰り広げるのであった。
その松山女子高の部員数は、何と114名。今時、良く集めたと感心するが、その内の一年生は66名に三年生は18名だそうで、これはかなりバランスが悪い。高嶋で大人数のリズムを揃える技術は高く、声も良く整えているが如何せん発声の浅く、人数分の深い響きの出て来ないのは物足りない。
二年生以上の女声48名と男声35名による混声合唱は、まず武満徹から。指揮の女性教諭は随分と踊る人だが、タケミツのジャズ感覚は良く捉えている。女声の弱いのは如何ともし難くとも、それを川越の生徒達はキチンと支え、混声の男声部として立派に機能し、良い混声合唱にしていた。やはり彼等は頭の良い子達で、何事にも呑み込みの早いのだろう。去年のNコン課題曲では、指揮の川越の顧問教諭が、やや非力な女声の能力を上手に引き出し、デュナーミクの作り方で情感を醸す、なかなか良い音楽作りがあった。
“ポップス・ステージ”での「マジンガーZ」の振付けには工夫の凝らされ、これが生徒さんのアイデアなら秀逸と感じる。次の「浪漫飛行」では客電を落とし、ペンライトで人文字を作る、とてもお洒落な演出のあり、これは稽古も大変そうだが、時々間違えるヤツの居るのもご愛嬌となっている。練られた企画で考え抜かれているし、真っ暗な中に“禁煙”の赤い行灯が、舞台の両脇に付いたままなのも泣かせる。
加山雄三はアカペラで、台詞は生徒の指揮者がキチンとキメたし、GReeeeNでは良く声も出て、美しいハーモニーがあった。Tシャツ・プレゼントの太っ腹企画もあって、客席を上手に盛り上げる工夫もある。生徒さんの薀蓄の披露や、寸劇はあっても長くは引っ張らず、ダレる寸前にアッサリと終える、彼等は程の良さ(これ大切ね)を心得ている。男子校定番の女装生徒も可愛らしかった。
最後の“ア・ラ・カルトステージ”は、ポップスで騒いで発声練習の出来たのか、男声らしい分厚いハーモニーで聴かせてくれる。トップは相変わらず喉声のままだが、中音域での密集和音に問題は無く、顧問教諭のコセコセしない、おおらかな指揮も良かった。「フライエ・クンスト」は一番を日本語、二番はドイツ語でやったが、これぞ正統派のグリー調と感じ入る。最後の黒人霊歌は近年、関学のグリークラブが愛唱曲としているが、何でこんなフニャフニャした曲やるんだ?としか、僕は思っていなかった。だが、今日の川越の演奏は如何にもグリーらしく、汚い声を出す事に躊躇が無く、由緒正しい男声合唱の在り方を示していた。
アンコールの松下耕編曲の「八木節」は、如何にも安っぽいアレンジで、僕は聴く度に辟易させられる。同じ「八木節」なら、清水脩編曲版の方が余程マトモだが、あれはお囃子の伴奏を必要とする。これはアカペラなので流行るのだろうが、良い加減あの編曲の下らなさに、皆さん気付いて欲しい。
しかし、今日は遥々と川越まで来て、本当に良かったと思う。そもそもグリーなんて、そんなに上手な必要など無いのだ。僕なんか単純だし、綺麗な倍音のハーモニーと、汚いトド声を交互に聴かせてくれれば、それだけで感激してしまう。でも、そんな男声合唱は、今では滅多に聴く事の叶わない。関西では絶滅状態の真っ当なグリークラブが武蔵野に生き残っている。長く重い伝統を引き受ける、川高グリーの生徒諸君にエールを送りたい。
指揮/吉田寛/吉田みどり
生徒指揮/石井凌雅
ピアノ/野島万里子
埼玉県立川越高校グリークラブ
埼玉県立松山女子高校音楽部
松下耕「はらへたまってゆくかなしみ」(秋の瞳)
Ester Magi:Kerko-kell
木下牧子「彼/いつからか野に立つて(いつからか野に立つて)/
いっしょに(光と風をつれて)/わたしはカメレオン(わたしはカメレオン)/
老いたきつね(光る刻)」
高嶋みどり「太鼓を叩け、笛を吹け」(マレー民衆の唄“パントン”)
源田俊一郎編曲「瑠璃色の地球」(ウェディングセレクション)
武満徹「島へ」(うた)
信長貴富編曲「みかんの花咲く丘」(ノスタルジア)
上田真樹「僕が守る」
猪間道明編曲「マジンガーZ」
今村康編曲「浪漫飛行/世界に一つだけの花/栄光の架け橋」
Tsing-moo編曲「愛唄」
福永陽一郎編曲「君といつまでも」
Dvid Wright-arr:Lazy day
J.H.シュトゥンツ「自由の歌」
Tom Gentry:Sound Celebration
昨日は早朝からバタバタと走り回り、寄る年波を痛切に感じる僕としては、今日も早起きして福島から川越まで駆け付ける自信は無かった。しかし、今日は福島市の近場でコンサートが無い。昨日の土曜日は安積黎明と福島東の他にも、喜多方高校と仙台三桜高校の定演が被った。今日やってくれれば、どちらかに行ったのだが、これは言っても詮無い事である。昨年、伝統校の川越が九年振りにコンクール全国大会へ復帰したのは、男声合唱愛好家として嬉しいニュースだった。どうやら規模・実力共に復活を果たしたらしい、川越高校の定演を是非とも聴きたい、そう考えた僕は疲れた身体に鞭打ち、鈍行を乗り継いで川越へ向かった。
JR川越駅で下車し、駅前の交番で市民会館への道順を尋ねると、歩いては無理だからバスで行けと勧められる。でも、バス停で時刻表を見ると、開演時間に間に合いそうなバスが無い。万止むを得ず、タクシーで会場へ向かう。折角、新幹線代ケチっても、こんなトコで金使っちゃうんだよなぁ…。
又もや“時は金なり”で悠々と会場入りし、客席に着く。コンサート冒頭は校歌・応援歌・部歌の三連発。校歌はお約束通り音程の悪かったが、しかし三曲共に横を揃えようとか云うムダな努力は放棄し、ひたすらに元気良く歌いまくる。兎に角、生徒さんの指揮が煽る、煽る。これぞ正しく古式床しいグリー調で、こんな男声合唱が武蔵野の林間に生き伸びていたかと、僕は感激してしまう。もうあれだ、これだけでタクシー代の元は取れたぞ。
プログラムの最初はコンクール曲で、エストニアの何とか云う作曲家の自由曲は、訳の分からんヘンな曲。トップ・テノールは喉声で、ベース系は塩辛い声だし、現状の技術レヴェルを高いとは云い難い。でも、県大会はシードだそうなので、まあこれからだろうと思う。さすがに洗練されたとまでは云えないが、木下の二曲は結構キレイにハモらせ、曲によってキチンと発声を使い分ける、彼等は男声合唱のツボを心得ている。いいですねぇ、ホントにいいですねぇ。
次は女子高コーラス部の招待演奏で、これも如何にも青春してて良いですよねぇ。やっぱ高校生だと、合コンはハイキングとかに行くのかなとか、合同練習で女子高に入れるなら、ちょと嬉しいだろうなとか、でもそこでカップルの出来ちゃうと、部内に嫉妬の渦巻いたりして…と、おじさんは妄想を繰り広げるのであった。
その松山女子高の部員数は、何と114名。今時、良く集めたと感心するが、その内の一年生は66名に三年生は18名だそうで、これはかなりバランスが悪い。高嶋で大人数のリズムを揃える技術は高く、声も良く整えているが如何せん発声の浅く、人数分の深い響きの出て来ないのは物足りない。
二年生以上の女声48名と男声35名による混声合唱は、まず武満徹から。指揮の女性教諭は随分と踊る人だが、タケミツのジャズ感覚は良く捉えている。女声の弱いのは如何ともし難くとも、それを川越の生徒達はキチンと支え、混声の男声部として立派に機能し、良い混声合唱にしていた。やはり彼等は頭の良い子達で、何事にも呑み込みの早いのだろう。去年のNコン課題曲では、指揮の川越の顧問教諭が、やや非力な女声の能力を上手に引き出し、デュナーミクの作り方で情感を醸す、なかなか良い音楽作りがあった。
“ポップス・ステージ”での「マジンガーZ」の振付けには工夫の凝らされ、これが生徒さんのアイデアなら秀逸と感じる。次の「浪漫飛行」では客電を落とし、ペンライトで人文字を作る、とてもお洒落な演出のあり、これは稽古も大変そうだが、時々間違えるヤツの居るのもご愛嬌となっている。練られた企画で考え抜かれているし、真っ暗な中に“禁煙”の赤い行灯が、舞台の両脇に付いたままなのも泣かせる。
加山雄三はアカペラで、台詞は生徒の指揮者がキチンとキメたし、GReeeeNでは良く声も出て、美しいハーモニーがあった。Tシャツ・プレゼントの太っ腹企画もあって、客席を上手に盛り上げる工夫もある。生徒さんの薀蓄の披露や、寸劇はあっても長くは引っ張らず、ダレる寸前にアッサリと終える、彼等は程の良さ(これ大切ね)を心得ている。男子校定番の女装生徒も可愛らしかった。
最後の“ア・ラ・カルトステージ”は、ポップスで騒いで発声練習の出来たのか、男声らしい分厚いハーモニーで聴かせてくれる。トップは相変わらず喉声のままだが、中音域での密集和音に問題は無く、顧問教諭のコセコセしない、おおらかな指揮も良かった。「フライエ・クンスト」は一番を日本語、二番はドイツ語でやったが、これぞ正統派のグリー調と感じ入る。最後の黒人霊歌は近年、関学のグリークラブが愛唱曲としているが、何でこんなフニャフニャした曲やるんだ?としか、僕は思っていなかった。だが、今日の川越の演奏は如何にもグリーらしく、汚い声を出す事に躊躇が無く、由緒正しい男声合唱の在り方を示していた。
アンコールの松下耕編曲の「八木節」は、如何にも安っぽいアレンジで、僕は聴く度に辟易させられる。同じ「八木節」なら、清水脩編曲版の方が余程マトモだが、あれはお囃子の伴奏を必要とする。これはアカペラなので流行るのだろうが、良い加減あの編曲の下らなさに、皆さん気付いて欲しい。
しかし、今日は遥々と川越まで来て、本当に良かったと思う。そもそもグリーなんて、そんなに上手な必要など無いのだ。僕なんか単純だし、綺麗な倍音のハーモニーと、汚いトド声を交互に聴かせてくれれば、それだけで感激してしまう。でも、そんな男声合唱は、今では滅多に聴く事の叶わない。関西では絶滅状態の真っ当なグリークラブが武蔵野に生き残っている。長く重い伝統を引き受ける、川高グリーの生徒諸君にエールを送りたい。