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橘高校合唱団第10回定期演奏会

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<旧県立福島女子高校通算第54回定期演奏会>
2012年7月24日(火)18:00/福島市音楽堂

指揮/大竹隆
ピアノ/鈴木あずさ
福島県立橘高校合唱団

ビュセール「Trois antienns a la Sainte Vierge Marie」
(聖母マリアのための三つのアンティフォナ)
ヴェルディ「Laudi alla Vergine Maria 聖母マリアへの賛歌」(聖歌四編)
コチャール「Assumpta est Maria マリア被昇天」
源田俊一郎編曲「ふるさとの四季」(OB・OG合同)
ミュージカル「天使にラブソングを…」
千原英喜「明日へ続く道」(平成24年度NHK全国学校音楽コンクール課題曲)
鈴木輝昭「血-腕(女に第1集)/終の日のわたしを焼く…(火へのオード)」
新実徳英「天使」(やさしい魚)


 安積黎明の地元の郡山文化センターは、今年の三月に再開へ漕ぎ着けたが、橘が毎年定演を行っている県文化センターは復旧の遅れ、九月まで補修工事に掛かるらしい。福島市音楽堂は音響の良い所為もあって人気の高く、休日のコンサート開催はクジ運次第。福島東は抽選で土曜日を引き当て、安積黎明と開催日が被ってしまい、橘の定演は昨年に続いて平日開催となった。

 毎年、楽しみにしている三善晃作曲の校歌の後、最初のプログラムは“マリア頌歌”。ビュセールと云われても、僕はドビュッシーの連弾曲をオケ版に編曲した人としか知らないが、このモテットは良い曲と思う。アカペラの残響が豊かに鳴り渡る、音楽堂のホール・トーンを生かした選曲で、教会のミサに列席しているような気分に浸れる。生徒さん達もその辺りの機微を心得て、取り分け弱音の響かせ方が上手い。祝祭的なレジーナ・チェリを挟み、前後の二曲との対比も上手に出来た。

 「聖歌四篇」はヴェルディ最晩年の宗教曲集で、最後のオペラとなったファルスタッフと同時期に作曲された、老大家による“白鳥の歌”と呼べるだろうか。その内のスタバート・マーテルとテ・デウムは、レクイエムと同じく演奏会用で管弦楽入りの大曲。アヴェ・マリアと、今日演奏されたイタリア語テキストのラウダがアカペラで、こちらは静かな隠遁生活を送るヴェルディによる、内面的な信仰告白だろうか。心洗われるようなヴェルディと云うのも、何か似合わないけれども。

 演奏は指揮者が曲を大掴みにした中で、テンポとダイナミズムを自在に転がし、柔らかいロマンティシズムを充全に表現する。その直後にコチャ−ルを聴かされると、何だか品の無い音楽だなぁと感じるのは、まあ致し方の無い処か。

 唱歌メドレーの「ふるさとの四季」は、22名と多数の新入生を迎え、今年度45名の布陣となった現役に、20名程のOGを加えての演奏。あくまでレガ−トを基本とし、上昇音型はクレシェンド、下降音型はディミヌェントするシンプルな音楽作りで、リズムは立てても極端には走らず、邦楽的な後押しする弾み方がある。指揮者の爽やかなテンペラメントと、合唱団の自発性とが渾然一体となり、唱歌・童謡の素朴な歌心を表現する。この演奏は難しく考える事など何も無い。若い女性が浴衣姿で勢揃いする華やかさと、ひたすらに美しい響きを堪能すれば良いだけだ。顧問教諭の中年体形も浴衣姿にフィットしていた。

 毎年お馴染みの学芸会ミュージカルは、例年と比してコーラスの仕事量の多く、喋る量の少ないのを評価したい。お遊戯の振付けも上手に出来たし、何より自発的なノリの良さがあって、歌声に生彩の感じられるのが良かった。土曜日から数えると、僕の観る学芸会も四つ目だが、今日はソコソコ楽しめた。マリア頌歌の宗教曲集に合わせ、「サルヴェ・レジーナ」なのも気が利いている。

 最後はコンクール曲の演奏。Nコン課題曲の千原は、アチェルラントで畳み掛ける際の迫力や、フォルテシモでの声の輝き等で聴かせる。「女に」は熱演だが、フォルテもピアニシモも同じテンションの続くのが、聴いていて辛い処だ。合唱連盟の方の課題曲は新実徳英で、デュナーミクの工夫は本当にさり気なく、センシティブな感受性で聴かせる。「火へのオード」はスピントするフォルテシモに、鋭さでは無く柔らかさを感じる。ただ迫力で押すのではない、このお風呂場みたいなホールに声をクリアーに響かせ、対位法的な部分もクッキリと分離して聴かせる。会場に流れる空気へ載せるような、ピアニシモのソット・ヴォーチェも美しく、ハイテンションを続けた後、最後に緩めたのも効果的だった。

 とまあ、例によって小賢しく書き連ねたが、橘の演奏には余り小難しく考えず、その流れに身を任せていれば楽しめる、構えない自然体の美しさがある。安積黎明は今年の定演で、鈴木輝昭の曲集を二つ立て続けに演奏した。何と輝やん八曲連発である。橘は今回、昨年までの委嘱曲「智恵子抄」全曲の舞台初演を見送っていて、これは要するにお腹一杯と云う事らしい。橘の音楽はサラサラと流れ、安積黎明は声の太くなってしまった。

 未だに前任校でのド迫力のイメージの抜け切らない(あの「殺生石」は俺、夢でうなされたぞ)、橘の大竹教諭が実は草食系で、優男然とした見掛けによらず、安積黎明の宍戸教諭は肉食系であると、そろそろ結論を出しても良い時期かと思われる。

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