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第65回福島県合唱コンクール

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2011年8月26日(金)9:30/会津風雅堂

 家の人に今度また福島へ行くと告げると、あんたはそんなに何度も福島へ行って大丈夫か?と聞かれる。そんな事を言えば、今現に福島に住んでいる人達はどうなると思うが、一応は僕の身を案じてくれているのだし、直ちに健康へ影響の出る数値ではない等と、枝野官房長官みたいな事を言うのもアレなので、今度行く会津地方は放射線量の低いので心配は無いと答えて置く。まあ、この辺が被災地とは縁もユカリも無い、一般的な関西人の反応だろうと思う。戻ってから何人かの知り合いに、今年の夏は福島に三回行ったと話すと、概ね似たり寄ったりの応対だった。

 今年の京都五山の送り火では、被災地から送られた薪を燃やす燃やさないでモメる、何だか脱力するような下らない騒動のあったが、あれを放射能アレルギーと取るのは少し違っていて、僕は京都人の“イケズ”の典型例だろうと思っている。所謂、京都町衆と個人的な付き合いの無い方には分かり難いだろうが、あれは要するに古式床しい伝統行事で、辺鄙なド田舎の薪なんか燃やせるかと云う、全く低レヴェルの“いじめ”みたいな事柄と、僕は受け留めている。

 放射能の懸念とかは後付けの屁理屈で、ああ云った仕打ちには“イケズ”の仕返ししか対応法は無かろうと思う。京都市内の何処かで被災地の薪を盛大に燃やす、一大イヴェントの開催など考えられるが、これを実行すると相手と同じレヴェルへ降りる事になるので、敢えてお勧めはしない。本当にやったら、キャンプ・ファイアーみたいで楽しそうだけど。

 閑話休題。先週は信州・松本、今週は会津若松を訪れ気付いたのは、どちらも盆地にある城下町で、街中を歩くと四方に山の見えるのと、白い土蔵の目に付く共通点のある事。ただ、松本は市内中心部を女鳥羽川の流れて風情のあるのに、ここ会津若松は市の中心部に川の無いのは、やや寂しい。でも、川は無くとも盆地に沸く水は清冽で、松本も会津も蕎麦と酒が名物と云う共通点もある。両者共、何となくボンヤリ過すのに打って付けの街と思うが、コンクールは朝から晩までやっているので、真昼間から酒を呑む訳にも行かない。

 震災と原発事故の起こった今年、僕は初めて合唱コンクール福島予選を聴く為、お馴染みの会津風雅堂を訪れる。若い高校生諸君の演奏を、心して聴きたいと思う。

<福島市>
県立福島高校(混声38名)
指揮/石川千穂
松本望「やわらかいいのち」(あなたへ)
信長貴富「絶え間なく流れてゆく」(廃墟から)
 柔らかい声の心地良く、そこから曲の山場まで持って行く、テンションの張り方の巧い課題曲。男声の人数の多い分、ハーモニーに厚味はある。自由曲は不協和なハーモニーの美しいが、声楽的な能力の限界も聴こえる。良く歌えているし、実力的に目一杯の演奏とは思うが、一升枡に一升以上の酒は盛れない。「原爆小景」をお手軽にパクった、キッチュでチープなこの曲には、更にアザトい表現の望まれる。

県立橘高校(女声46名)
指揮/大竹隆
ピアノ/鈴木あずさ
ガルッピ「Judicabit in nationibus 主は諸国を裁き」(詩篇110番)
鈴木輝昭「亡き人に」(智恵子抄)
 清澄なソット・ヴォーチェから一転した歯切れの良いリズムで、ガルッピの快活な音楽を表現する。スフォルツァンドの用法にもツボを心得た、指揮者の手捌きが見事。鈴木へのドッペル・コールの委嘱曲には、やはり美しいソット・ヴォーチェと、ノン・ヴィブラートでスピントする、しなかやで強靭な高音域がある。対位法的な処理の巧みさと、的確なデュナーミクの作り方とで、明快なディクションを聴かせる。広いダイナミク・レンジの使い方も素晴しく、曲の重心の在り処を明確にする演奏だった。

福島成蹊高校(女声20名)
指揮/遠藤明子
スヴェーリンク「Lascia Filli mia cara 愛するフィリスよ」
ヨーゼフ・カライ「Hodie Christus natus est/Ave Maria II」
 スヴェーリンクは最初のテンポ設定が遅く、しかも途中で速くする解釈は曲への誤解に基づいていて、とにかく弄り過ぎ。カライもソツなく美しいが、これもテンポの弄り過ぎだし、粘り気味のリズム感で大味な演奏になって終う。遅過ぎるテンポの為、最後までテンションを保てなかった。

県立福島東高校(混声41名)
指揮/星英一
ピアノ/鈴木あずさ
ハイドン「Der Augenblick 束の間」
鈴木輝昭「W.シェイクスピアによる“十二夜”歌集」
 指揮者が快活なリズム感で、ハイドンの愉悦を存分に表現する。可愛らしい声でも、実に堂々たる演奏。この作曲者は英語歌詞に作曲したがるが、もしかしてブリテンを目指しているのだろうか。英語でなければならぬ、その理由を納得させる説得力に欠けていて、この前段階に僕は引掛って終う。演奏はややテンポ設定の遅く感じ、緩徐部分からは日本語の母音を聴き取れるが、後半の速い曲想では女声の軽やかな声質を効果的に使えて、納得出来た。

県立福島北高校(混声26名)
指揮/松本美香
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
パレストリーナ「Sicut cervus 谷川を慕いて」
 課題曲は速いテンポで、やや縦割りのリズム感はあるが、各声部の出し入れは良く出来ているし、雰囲気を掴んでなかなか美しい演奏。パレストリーナには暖かいニュアンスに満ちたハーモニーがあり、イタリアの香気の匂い立つ。ソプラノとアルトから、それぞれ表現意欲を感じるし、七名の男声の健闘も落涙物。ルネサンス音楽をキチンと理解している生徒に脱帽で、この大作曲家の名曲を美しく聴かせてくれた事に感謝したい。

県立福島明成高校(混声20名)
指揮/菊地和彦
ピアノ/安藤里緒
ヤコブ・ファート「O quam gloriosum est regnum 栄光に輝く王国」
木下牧子「はじまり」(光と風をつれて)
 課題曲はハーモニー重視の演奏で、リズムも縦割り気味。もう少し生徒の自発性を引き出したい。自由曲は縦をキチンと揃え、端正なリズム感で音楽を進める生真面目な指揮。曲の解釈がルネサンスと邦人で同じなのに、やや問題を感じる。これを一貫していると云えば、そうも云えるのかも知れない。

桜の聖母学院高校(女声15名)
指揮/佐川いずみ
スヴェーリンク「Lascia Filli mia cara 愛するフィリスよ」
コダーイ「Punkosdolo 聖霊降誕節巡り」
 良いハーモニーはあるが、僕はこのマドリガーレを同じテンポで通すべき曲と思うので、テンポを途中で変えるのは如何なものかと思う。マジャール語のリズム感はサマになっているし、完璧なノン・ヴィブラートでも、成熟した高校生の声で端正に進めるコダーイには、しっとりとした雰囲気のあって悪くない。但し、子供らしい楽しさは無く、児童合唱らしい愉悦感は決定的に欠けていた。

福島東稜高校(女声12名)
指揮/貝瀬幹雄
スヴェーリンク「Lascia Filli mia cara 愛するフィリスよ」
Waldemar Bloch:Kyrie/Gloria〜Missa Brevis
 課題曲では声の力不足で、音程を保てない部分のあるのが辛い。自由曲では個人の声質に任せて終い、発声法が統一されていない。指揮者のやりたい事は伝わるが、その辺から正して行かないと音楽は始まらないと思う。

県立福島西高校(女声11名)
指揮/西村静
土田豊貴「けれども大地は…」(夢のうちそと)
ジョルジュ・オルバン「Sanctus/Benedictus」(Missa Nona)
 少人数には辛い課題曲だが、良くこなして熱演する。自由曲でも大人数を必要とする解釈で、指揮者は大きく構え過ぎ。もっと肌理の細かいスタイルで、少人数の良さを追及したいし、生徒にそのポテンシャルはあると思う。

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