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Channel: オペラの夜
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プッチーニ「トスカ」

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<佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2012/プレミエ>
2012年7月19日(木)14:00/兵庫県立芸術文化センター

指揮/佐渡裕
兵庫芸術文化センター管弦楽団
ひょうごプロデュースオペラ合唱団
オープニング記念第九合唱団
宝塚少年少女合唱団
ダンスオブハーツ

演出/ダニエレ・アバド
美術・衣裳/ルイジ・ペレゴ
照明/ヴァレリオ・アルフィエリ

<Aキャスト>
トスカ/スヴェトラ・ヴァシレヴァ
カヴァラドッシ/ティアゴ・アランカム
スカルピア男爵/グリア・グリムスレイ
政治犯アンジェロッティ/キュウ・ウォンハン
密偵スポレッタ/成田勝美
憲兵シャルローネ/ジョン・ハオ
堂守/志村文彦
看守/大山大輔
牧童/佐野晶哉


 年に一度の兵庫芸文自主制作オペラ、今年の演目は四年振りのプッチーニで、「蝶々夫人」に続く第二弾「トスカ」。びわ湖ホールでもプッチーニは「トゥーランドット」と、「ラ・ボエーム」を取り上げていて、綺麗に棲み分け出来ている。今後どうなるのかは知らないけれども。

 今日がプレミエの演出家はイタリアからの招聘、指揮者クラウディオの甥でダニエレ・アバド。演技は舞台中央に置かれた、回転する楕円の盤上で行われる。このスタイルは大昔の写真でのみ見る、バイロイトのヴィーラント・ヴァーグナー演出を嚆矢(多分)とする、これまでに散々使い古された手法であり、何度も見たような既視感に溢れるセットだ。でも、その円盤と八本の柱のみのセットには抽象的な美しさがある。一幕の円盤上には壁画を描く為の足場を、二幕ではスカルピアのディナー用テーブルを、三幕は天使の銅像を置いて場面転換する、美術の出来映えは悪くない。

 「トスカ」の物語は時代設定の明確で、読替えの余地に乏しいが、何故か今日は衣装だけ前世紀三十年代風。憲兵隊は黒尽くめ、坊さんは紅白に色分けされ、真っ白なセットに彩りを与える、華やかに祝祭的な舞台作りがある。問題は美術には無く、演出そのものにある。演出家の力量は、モブの動きの処理へ端的に現れる、と僕は考える。大人のコーラスは文字通り突っ立ったままで、堂守に纏まり付く児童合唱への振付けにも何の工夫も無い。それと幕切れの場面、僕の座る四階席からはトスカの飛び降りる際の、受身用の黒いマットレスが丸見えなのにも興醒めする。一事が万事で演出家の力量不足は明らかで、わざわざイタリアから連れて来る側のセンスも疑われる。

 ここでのオペラ上演は、良くも悪くも芸術監督次第で、全て佐渡裕一人の責任に帰するのであれば、僕も文句の付け甲斐のあると云う物だ。演出に関し、ソコソコの成功を収めて来た兵庫芸文オペラに、要求される水準は上がっている。今回の演出に何の創見もないと言うのは、それを踏まえての意見なのである。

 抽象的なセットへ対応するように、指揮者は「トスカ」の音楽に対し、ザッハリヒで外面的なアプローチを取る。全体を大掴みにしてコセコセせず、甘さや思い入れを排し、オペラの物語を機能的に進める気配がある。二幕の最後、スカルピアの葬送音楽には軽くパウゼを挟み、細部の拘りにも冴えを見せる。このオペラはイタオペの一つの典型で、劇的展開がどうとかよりも、主役の三人の圧倒的な“声”だけで成立する。そうであれば、今日のオケは即物的に大きな音を出して、「トスカ」の音楽に必要とされる容量は満たしていたと思う。

 今日のタイトル・ロール、ヴァシレヴァは声に甘い音色があり、ドルチェな表現力に加えて、オケを突き抜いて聴かせる力強さがある。音響としての密度の高い所為か、スピントする声に鋭さもあり、見た目は小柄で細身でも、ソプラノ歌手として恵まれた能力をお持ちと思う。カヴァラドッシのアランカムは立ち上り、喉に詰めた抜け切らない発声で“妙なる調和”のアリアを歌い、先の思いやられる。だが、直ぐに頭の天辺へ抜ける声となり、二幕のキメ台詞“ヴィットーリア”は見事だったし、皆様お待ちかねの“星は光りぬ”も、まずまず楽しませてくれた。

 スカルピアのグリムスレイには圧倒的な声量があり、朗々たるバリトンで聴かせてくれる。悪役としての存在感を、声で示せる実力者と思う。主役の三人の内、カヴァラドッシに今後の精進の余地は残るが、トスカとスカルピアは期待された“声”の芸を遺憾無く発揮し、まずは満足すべき出来だった。ベテランで固めた脇役陣も、本来はヘルデン・テノールの成田勝美がスポレッタで良い味を出したし、堂守の志村文彦にはコミカルな演技力があり、何れも手堅く聴かせてくれた。

 今日のキャストはブルガリア人のトスカに、ブラジル人のカヴァラドッシとアメリカ人のスカルピア、それに東洋勢も日中韓を揃えて国際色豊かな布陣。ただ、韓国人のキュウ・ウォンハンは別に悪い歌手とも思わないが、このプロダクションで主役を張る実力は無いのに、兵庫芸文への出演頻度は多過ぎるように思う。佐渡芸術監督の旧友だそうで、余り露骨な身贔屓は如何なものかと思う。

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