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武満徹メモリアルコンサートXVII

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<サイトウ・キネン・フェスティバル松本2012>
2012年8月30日(木)19:00/長野県松本文化会館

武満徹「アントゥル=タン/そして、それが風であることを知った/
秋庭歌一具(全6曲)〜参音聲/吹渡/塩梅/秋庭歌/吹渡の二段/退出音聲」

オーボエ/フィリップ・トーンドゥル
フルート/ジャック・ズーン
ハープ/吉野直子
ヴァイオリン/井上静香/双紙正哉
ヴィオラ/柳瀬省太/川本嘉子
チェロ/イズー・シュア
雅楽/伶楽舎(芝祐靖音楽監督)


 サイトウ・キネンは今年20周年を迎えたが、武満メモリアルの方は17回目だそうで、僕は毎年やっていると思い込んでいたが、そうでもないらしいとは始めて知った。武満の室内楽なら常に、日程さえ合えば聴きたいと思っている。これまで会場に使われていた松本市ザ・ハーモニーホールは、公園内の緑に囲まれ、音楽の演奏と鑑賞に相応しい立地にある。今年、県文化会館で行われるのは少し残念だが、その代わり今回はオール・タケミツ・プロで、今日はジックリその音楽に浸ろうと思う。

 前半のプログラムは一般的な編成で、86年作曲のオーボエ・カルテット「アントゥル=タン」と、ドビュッシーのソナタ編成に倣った92年作曲、フルートとヴィオラ、ハープのトリオによる「そして、それが風であることを知った」の二曲。オーボエ・カルテットでは、管と弦の掛け合いの続いた後、長調の三和音で締め括られる。トリオ曲はハープが割りに普通にアルペッジョを弾く上を、特殊奏法テンコ盛りのヴィオラとフルートが、ポリフォニックに旋律を絡ませて、如何にも武満らしい響きがある。

 この二曲を続けて聴けば、削ぎ落とされて肉厚な響きの無い、“タケミツ・トーン”を堪能出来る。毎度お馴染みで、何時まで経っても同じような曲想の続くが、その中で曲による違いを聴き分ける、武満にはそんな楽しみもある。現代音楽のコンサートに、オール・タケミツ・プロの多いのは、そんな処にも理由のある気がする。

 フルートのズーンはサイトウ・キネンの常連奏者で、小澤にロイヤル・コンセルトヘボウ管から引き抜かれ、ボストン響で首席を務めた人らしい。以前に聴いた際も木製楽器を吹いていたし、しかもフランス・ブリュッヘンと同郷のオランダ人だが、別に古楽志向のある訳でもないらしい。それにしてもハープの吉野さんは、デビュー当時から容姿の変わらない方だが、川本さんの益々貫禄を増されたのには、何だか感慨を覚える程だ。

 休憩中、後半に登場する雅楽団体の為、舞台上ではセッティングの行われるが、これが何だか随分と物々しい。僕は雅楽なんて実際に聴くのは初めてだし、良く分からないけれども、これも一種のショー・タイムのように感じる程、準備に手間の掛かる様子だ。

 セッティングを終えた処で伶楽舎ご一行、総勢三十名様が静々と登場する。この方々、そもそも出で立ち装束からして物々しく、使う楽器も何やらコテコテの装飾満載で、既に音を出す前からパフォーマンスの始まっているように思う。客演奏者の中に鞨鼓の担当として、山口恭範の名のあるのが目を引く。武満は打楽器の為の曲を沢山作っており、その内の「雨の樹」や「雨の呪文」、「クロス・ハッチ」等の初演を手掛けた、山口は謂わばスペシャリストで、雅楽や邦楽との共演も多いようだ。

 楽人の配置は舞台中央に「秋庭歌」として、龍笛の芝祐靖音楽監督以下九名が陣取り、舞台後方と両袖には、それぞれ「木魂」として三つのグループが配置される。山口恭範はエライ派手な装飾の施された鞨鼓を前にして、笙の人気奏者である宮田まゆみと共に、「秋庭歌」に座っている。

 演奏に付いて、僕に何か語る能力等ある訳も無いが、まあ「秋庭歌」の主導して「木魂」が応唱し、四グループのユニゾンがポリフォニックに展開する、曲の狙い程度は分かる。本物を聴いた事の無いし、比較の仕様も無いが、この曲が雅楽の語法に則って作曲されているのなら、こりゃ武満の語法そのままじゃんかと感じる。

 パーカッションに後押しのリズム感のあって、邦楽風に作られているし、ポツンポツンと叩くリズムを少しズラすのも、如何にもタケミツっぽい。琵琶と筝は和音担当でアクセントを付け、笙は高音部を、篳篥の小さいのは低音部を担当し、音色に変化を付ける。トゥッティでのフォルテシモの音量はデカく、フルオケっぽい感じもする。衣装も楽器も舞台装置も凝っていて、ライブを観る楽しみはあるが、全曲演奏に小一時間も掛かる大曲で、タケミツでお腹一杯となり、少し長過ぎるんじゃないかとも思う。

 笙の奏者が唾抜き用に、黒塗りの専用お鉢を傍らに置いているのは、実に奥床しくて良いと思う。クラシックの金管奏者どもが、唾を抜いてそこらにぶちまけ、周辺の床の濡れるのを見るのは、誰にしたって気色の良いもんじゃありませんわな。

 今回、ロビーでの振舞い酒は、サイトウ・キネン・オリジナル菰樽入りの“大雪渓”。大雪渓って松本市内のスーパーマーケットを回ると、普通酒生酒を良く見掛ける、生酒に力を入れている蔵のようだ。僕はスーパーでは買わず、管理の行き届いた専門店で買って呑んだけれども、なかなか美味しい酒だった。勿論、樽には火入れ酒を詰めているだろうが、これもまずまず美味しく頂けました。

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